2006-01-01から1年間の記事一覧

悲鳴

子供の泣き声がした。 電話の向こうで女が何かを怒鳴りつけて、子供の声が大きくなった。 何かを叩く音が鼓膜に嫌な振動を与えた。 私は、子供のあげる悲鳴のような泣き声に顔をしかめた。 「愛さん。助けて」 男が子供のように泣きながら、電話をかけてきた…

経歴

何となく気まぐれに立ち寄った市の図書館で 思わぬものを見つけた。 タダで利用できる図書館と言う場所には 実に様々な経歴をもった人がいるものだ。 平日に学校をサボっているのに遊ばずに図書館で勉強している高校生。 テスト期間で学校が昼で終わったのか…

欠落

子どもは流れてしまった。 義父の住む実家に引っ越す算段で、 挨拶にいった日、義父は機嫌良く私を迎えてくれた。 まるで親子のように一緒に酒を飲み、帰り道、 駅の階段で転んで腹を強打した。 腹痛に耐えて、部屋へたどりつきトイレで嘔吐し、 汚物を流さ…

流れ

吐き気がするのは、つわりのせいだけじゃない。 以前は毎日のようにしていたセックスを、 この何ヶ月かしていないからだ。 妊娠が分かって2ヶ月、流れやすい今の時期に 赤ちゃんの部屋のドア付近に、 男を出し入れするのは厳禁だ。 執念で手に入れたこの種を…

嘘つき

私は嘘をついた。 ピルを飲みはじめたから、中で出してもいいよと 犬に笑顔で語りかけた。 犬は、キラキラした目で、封を開けたコンドームを ゴミ箱に投げすて、私に抱きついた。 私の言葉を疑わない子犬の目は、私の支配欲をかきたて 同時に奪いもした。 「…

猫の子ども

熱が引いて、私は仕事に出かけた。 今日の1本目の客は、以前浴室の中から、 プレイの準備をしている私に結婚を申しこんできた 初老の男性だった。 私がプライベートで個人的に副業をはじめ、何度か、 3万円コースでベットを共にしたのだが、相変わらず 本業…

火傷

鼻とノドの奥、食道、肺の底、胃や腸、膣、身体中の管がヒリヒリした。 熱いココアを飲みこんで、火傷したときのように、私の身体は引っ掻けない 痒みと痛みに満たされて、一日中うなされた。 犬はウロチョロして私の機嫌を損ねないように、時折冷やしタオル…

炎症

膣にピリピリとした痛みを感じ、婦人科へいった。 パンティーを脱いで、スカートをたくし上げ、 自動開脚椅子の上に座り、しなびた白衣のおじいさんの 指で膣をさぐられ、器具でおりものを採取された。 おじいさんは、多分ガンジタ菌による炎症ですねと、 し…

ひとり

仕事行かなくていいの?と私が明け方 仕事から帰ってベットにもぐりながら聞くと、 犬は、クビになったからいい、と寝ぼけた声で答えた。 ローションを流して帰宅した私の髪の匂いを 犬は嗅ぎながら再び眠りについた。 昼頃まで眠って、起きると犬がいなくな…

出口

私が犬を撫でているとき、突然姉がやってきた。 ジーンズのマタニティードレスを着た姉は 以前より少し太って、老けいているように見えた。 犬に服を着せ、ベットの上に座らせて 私はキッチンに立って、ミルクティー二つを入れ、 姉にすすめた。すると姉は、…

雨の公園で男を拾った。 そこら中にホームレスが 青いブルーシートを張っている公園の ベンチに、男は泥酔して横たわっていた。 安っぽいグレーのスーツとくたびれたYシャツをきていた。 ネクタイは3次会のカラオケで外して忘れてきましたという風情だった…

独り言

「3万でいいよ」 私が、いつも男達にそうしているように 耳元でささやいたら、彼は一瞬困った顔をして 私の目をじっと見た。 「ごめん」と彼は本当に申し訳なさそうに言った。 今度は私が一瞬困った顔になって、男の目をじっと見た。 「店外デートって、そう…