2005-01-01から1年間の記事一覧

友人

大学時代の友人の家に遊びに行った。 2歳の男の子が、母親である友人の後ろに 隠れるように私を見ていた。 あまり高そうではないが品のいいティーセットに アップルティーが注がれて、昼下がりの穏やかさを 象徴するような罪のない昔話に花が咲いた。 しばら…

白い景色

もう戻れないと思った。 私は今お金をもらってセックスをする習慣を 覚えて身につけて、その味に馴染んでしまった。 初めての客は、圭太だった。 友達として、建設的に仲良くお互いの よき理解者としてたまに遊びに出かける仲でいようと、 圭太はレモンイエ…

圭太が突然部屋へやってきた。 置き去りにしてごめんねと、玄関で涙を見せた。 私は少し冷めた目で、圭太の涙でグチャグチャになった マスカラが目の下に黒いシミを作る様子を眺めていた。 とりあえずココアを飲ませて、圭太を観察した。 「愛ちゃんが好き」…

フラッシュバック

「お前にいくら使ったと思ってるんだ」 毎日のようにお店に通ってくれるお客さんの一人に 店外デートに誘われた。 私が丁重にお断りの言葉を発して、 その言葉を言い終わらないうちにお客さんは 静かに充血した目で私をにらんだ。 私は、とっさに涙を流して…

帰路

圭太の車で近場の温泉に行った。 一泊二日で貸切露天風呂だけがセールスポイントの 特に何の特徴もない普通の宿に泊まった。 ただ、一緒にお湯につかってくだらない世間話をして 夜は同じ布団で眠った。 圭太は私の腕枕で子どもの寝顔で目を閉じていた。 私…

後悔

お酒に酔った私の頭の中に、 追い払って目を背けて自覚しないように 気をつけていた「後悔」という 二文字が襲ってきた。 姉と男は結婚して二人で頑張っていくと決めたのに、どうしてそれを私に 黙っていたのか。私が仕事をやめるといった時、何故そのことを…

子ども

姉の子どものために貯金してきたお金は、いつか 自分に子どもができた時、その子のために使おう。 いつか、自分が家庭を持つ幸福にめぐり合えたら 今稼いでいるお金は、その時役に立つだろう。 今日は圭太とお昼を食べた。 圭太は鮮やかなピンク色のファーの…

花束

ローションを洗面器でお湯と割って温めていると 入店して3日後、私を初めて指名してくれて、 週1で通い続けてくれているお客さんのNさんが 「結婚してください」と言った。 Nさんは、奥さんを14年前交通事故でなくして、子どももなかったため、 一人き…

行方

姉はお腹の子どもの父親の所にいた。 3万円の手切れ金を置いて、姉を捨てた細身の 背の高い気弱そうで神経質な目をした男の部屋は、 わたしの部屋から近いタクシーで2メーター、 電車で1区間の目と鼻の先にあった。 私と暮らし始めた頃、すでに姉は彼の部…

知らない男

何もする気がおきない。 今日も店を休んでしまった。 初日に私が教育を受けたヤクザな店長さんは 「頑張りすぎたんだよ。ゆっくり休みなさい」と言った。 私の変わりはいくらでもいる、そう言っているように 聞こえて、私は病んでいる自分と冷静な自分を同時…

充血

姉が失踪した。 私が仕事から帰り、姉の部屋をのぞくと、 そこには、いつもの壁際で小さくうずくまって 編み物をする姉の姿はなかった。 4日前の朝方、私達はけんかをした。 原因は、私が先日部屋へ招待した職場の友人と飲んで帰ったことだった。 姉は、私…

愛の結晶

夜の街で再会した中学のクラスメイトの圭太とお茶をした。 圭太は紫色のVネックセーターの胸元から人工の胸の谷間を 誇らしげにチラつかせながらパーラメントメンソールを吸っていた。 私が中学の頃から隠れて吸っていたショートホープの小さな箱を カバン…

テンション

職場に友人が出来た。 たまたま仕事を上がる時間が同じで、帰りに一緒にラーメンを 食べたり、お互いの身の上話をしているうちに傷の舐め合いの ような共感と、親友のようなテンションが芽生えてきた。 少し面長で鼻筋の通った美しい顔に似合わないクマを、…

温度

愛について考えながら、私は今日 初めて知り合った男の身体の上をローションで滑った。 駅から一番近いソープランドにアポなしで入って行き、 受付の油ぎった髪をおでこにくっつけた男に働きたいと言ったら 男はどこかへ電話をかけた。 すぐにヤクザ風の男が…

朝帰り

久しぶりの朝帰りだった。 昨日、私は夜の繁華街で道に迷っていた。 雑踏と笑い声と電子音につつまれて、行き交う人々の 瞳の中には、ネオンの明かりがキラキラと反射していた。フラフラと右に曲がったり、きびすを返して左に戻ったり、 キョロキョロと落ち…

Living

今日会社を辞めた。 姉を引き取ってからずっと考えていたことだ。 OLの安給料で、姉と姉の子どもを養っていくのは難しい。 女が手っ取り早く稼ぐにはどうしたらよいか。 手垢にまみれた問いかけを自分の胸につかえさせて、 何度も咳ばらいしながら私は求人誌…

不器用

「うまくいかないの」 お風呂から上がって、一気飲みしたビールの炭酸に むせている私の後ろで、姉がため息をついた。 「何が?」 「赤ちゃんの靴下編んでるんだけど、うまくいかないの」 私は編み物の本とにらめっこして、本の中でかわいく並ぶ小さな靴下と…

窓からみえる風景

同僚の実家はお屋敷と呼ぶのがとても しっくりくるような立派な旧家だった。 昨日、同僚のお葬式のために、有給をとり防虫剤の匂いが 落ちきらない黒い服をきて、私は京都行きの新幹線に乗った。心情によって見える雰囲気の変わる窓からみえる風景を、 私は…

自殺

同僚が自殺した。 明け方、会社の屋上の柵を越えて飛び降りた。 屋上にはきれいに並べられた彼女の靴があり、 その下には遺書があったという。 何と書かれていたのだろう。 朝、出社してみると会社の周りには人だかりがあった。 会社の女の子が、私を見つけ…

実り

ざくろを盗んで食べた。 会社の裏に公園があり、その隣にざくろを庭先に 実らせたお宅があった。 お昼休みに同僚の女の子とランチの美味しい喫茶店に行った。 いかにも水商売上がりの昼間見るには濃すぎるお化粧が、 何故かしっくりきてしまう美老女が営むそ…

写真を撮るのが好きだ。 自分の手で世界を切り取って、自分だけの作品を この手で生み出したような気分になれる。 何かを自分の手で生み出すということは、 ただそれだけで素晴らしい。 子どもを生んでみたい。 そして、育ててみたい。 空のように毎日違う顔…

衝動

家に帰ると姉はいなかった。 お腹の子供のために栄養のいいものを食べさせようと思い、 退社後、お金をおろしてスーパーに行った。 普段は絶対買わない高めの牛肉の売り場の前で足を止めて 今日は豪華な鍋料理を作ろうと思いついた。 衝動買いに近かった。 …

恋人の一言

「やっぱりコンドームはつけるべきだな」 私は西日のさす喫茶店で、ホットミルクを口にふくみながら 窓の外を見ていた。 姉の妊娠で、私は生活や家族や人生について考え、恋人は 避妊の大切さをかみ締めていた。 はした金をおいて消えた姉の恋人、そんな姉の…

姉の引越し

姉に子供が出来た。 私が姉からの電話を受けてタクシーをアパートに乗りつけた時、 相手の男はわずかなお金をおいて部屋を出て行くところだった。 ドアの前で男とすれ違った時、私は男の顔を見なかった。 何故なら、男の顔は私の視線を拒絶するように無表情…