老紳士

私は今、囲われている。 月に1回の約束を守れば30万を振り込んでくれる 老紳士と出会った。 その老紳士はどことなく、本当の父に似ている。 幼い頃の記憶は曖昧で、はっきりとどこが似ているとは 言えないが、その人といると泣いたり笑ったりが自然にできる…

強さ

人間は強い。 もう、歩けない、もう生きていたくない、 もう、無理、もう、何もしたくない、 もう、誰にも会いたくない、 もう、死にたい、と強く願い、 弱弱しい自分を撫でて、自己愛を高めても、 再び歩き出し、死んだりせずに、何かをしていて、 どこかの…

花 花 花

青い花

頭上

少しまぶしい。

散歩

醜い

義父が家にいる。 仕事から帰ると、テレビの音がする。 お笑い番組の中の笑い声に一呼吸置いて 義父が笑う声が、低くうなる。 上司の車で送られて帰宅すると、今日もまた、 部屋にはテレビの中の笑い声と、義父のうなるような醜い笑い声が充満し、 床にはつ…

花の命

いつも会社の帰りによるスーパーに姉がいた。 私はとっさに身を隠した。 姉は小さな子どもをだっこしながら ショッピングカートを左手で不器用そうに フラフラと押していた。 カゴにはレトルト食品とスナック菓子が山のように積まれ、 その隙間に、明らかに…

水漏れ

給湯室の流しの蛇口を壊した。 どんなに蛇口をひねっても水のしずくが落ちるので、 強く締めようと力を入れたら蛇口がゴリッととれた。 手のひらにすっぽりと包めてしまう丸みを帯びた 小さな金属の固まりが思ったより重くて、 その重量感を右手で味わった。…

電源

新しい職場の上司は私にセクハラをした。 私は抵抗しなかった。 新しく入ってくるバイトにセクハラをするのが その40を目前に控えた男の唯一の楽しみなのだろう。 男がねっとりとした目つきで私の体をみていたのは 初日から知っていた。 3日目に食事に誘われ…

沈黙の今

コンタクトの目が乾き、 目薬をさしたらマスカラが黒く頬に流れた。 鏡に映る青白い自分が黒い涙を流している。 私はそれをしばらく見つめていたかった。 携帯が鳴り、着信画面を見て電源ごと携帯を切った。 昨日仕事の面接を受けた。 派遣会社の事務員のバ…

悲鳴

子供の泣き声がした。 電話の向こうで女が何かを怒鳴りつけて、子供の声が大きくなった。 何かを叩く音が鼓膜に嫌な振動を与えた。 私は、子供のあげる悲鳴のような泣き声に顔をしかめた。 「愛さん。助けて」 男が子供のように泣きながら、電話をかけてきた…

経歴

何となく気まぐれに立ち寄った市の図書館で 思わぬものを見つけた。 タダで利用できる図書館と言う場所には 実に様々な経歴をもった人がいるものだ。 平日に学校をサボっているのに遊ばずに図書館で勉強している高校生。 テスト期間で学校が昼で終わったのか…

欠落

子どもは流れてしまった。 義父の住む実家に引っ越す算段で、 挨拶にいった日、義父は機嫌良く私を迎えてくれた。 まるで親子のように一緒に酒を飲み、帰り道、 駅の階段で転んで腹を強打した。 腹痛に耐えて、部屋へたどりつきトイレで嘔吐し、 汚物を流さ…

流れ

吐き気がするのは、つわりのせいだけじゃない。 以前は毎日のようにしていたセックスを、 この何ヶ月かしていないからだ。 妊娠が分かって2ヶ月、流れやすい今の時期に 赤ちゃんの部屋のドア付近に、 男を出し入れするのは厳禁だ。 執念で手に入れたこの種を…

嘘つき

私は嘘をついた。 ピルを飲みはじめたから、中で出してもいいよと 犬に笑顔で語りかけた。 犬は、キラキラした目で、封を開けたコンドームを ゴミ箱に投げすて、私に抱きついた。 私の言葉を疑わない子犬の目は、私の支配欲をかきたて 同時に奪いもした。 「…

猫の子ども

熱が引いて、私は仕事に出かけた。 今日の1本目の客は、以前浴室の中から、 プレイの準備をしている私に結婚を申しこんできた 初老の男性だった。 私がプライベートで個人的に副業をはじめ、何度か、 3万円コースでベットを共にしたのだが、相変わらず 本業…

火傷

鼻とノドの奥、食道、肺の底、胃や腸、膣、身体中の管がヒリヒリした。 熱いココアを飲みこんで、火傷したときのように、私の身体は引っ掻けない 痒みと痛みに満たされて、一日中うなされた。 犬はウロチョロして私の機嫌を損ねないように、時折冷やしタオル…

炎症

膣にピリピリとした痛みを感じ、婦人科へいった。 パンティーを脱いで、スカートをたくし上げ、 自動開脚椅子の上に座り、しなびた白衣のおじいさんの 指で膣をさぐられ、器具でおりものを採取された。 おじいさんは、多分ガンジタ菌による炎症ですねと、 し…

ひとり

仕事行かなくていいの?と私が明け方 仕事から帰ってベットにもぐりながら聞くと、 犬は、クビになったからいい、と寝ぼけた声で答えた。 ローションを流して帰宅した私の髪の匂いを 犬は嗅ぎながら再び眠りについた。 昼頃まで眠って、起きると犬がいなくな…

出口

私が犬を撫でているとき、突然姉がやってきた。 ジーンズのマタニティードレスを着た姉は 以前より少し太って、老けいているように見えた。 犬に服を着せ、ベットの上に座らせて 私はキッチンに立って、ミルクティー二つを入れ、 姉にすすめた。すると姉は、…

雨の公園で男を拾った。 そこら中にホームレスが 青いブルーシートを張っている公園の ベンチに、男は泥酔して横たわっていた。 安っぽいグレーのスーツとくたびれたYシャツをきていた。 ネクタイは3次会のカラオケで外して忘れてきましたという風情だった…

独り言

「3万でいいよ」 私が、いつも男達にそうしているように 耳元でささやいたら、彼は一瞬困った顔をして 私の目をじっと見た。 「ごめん」と彼は本当に申し訳なさそうに言った。 今度は私が一瞬困った顔になって、男の目をじっと見た。 「店外デートって、そう…

友人

大学時代の友人の家に遊びに行った。 2歳の男の子が、母親である友人の後ろに 隠れるように私を見ていた。 あまり高そうではないが品のいいティーセットに アップルティーが注がれて、昼下がりの穏やかさを 象徴するような罪のない昔話に花が咲いた。 しばら…

白い景色

もう戻れないと思った。 私は今お金をもらってセックスをする習慣を 覚えて身につけて、その味に馴染んでしまった。 初めての客は、圭太だった。 友達として、建設的に仲良くお互いの よき理解者としてたまに遊びに出かける仲でいようと、 圭太はレモンイエ…

圭太が突然部屋へやってきた。 置き去りにしてごめんねと、玄関で涙を見せた。 私は少し冷めた目で、圭太の涙でグチャグチャになった マスカラが目の下に黒いシミを作る様子を眺めていた。 とりあえずココアを飲ませて、圭太を観察した。 「愛ちゃんが好き」…

フラッシュバック

「お前にいくら使ったと思ってるんだ」 毎日のようにお店に通ってくれるお客さんの一人に 店外デートに誘われた。 私が丁重にお断りの言葉を発して、 その言葉を言い終わらないうちにお客さんは 静かに充血した目で私をにらんだ。 私は、とっさに涙を流して…

帰路

圭太の車で近場の温泉に行った。 一泊二日で貸切露天風呂だけがセールスポイントの 特に何の特徴もない普通の宿に泊まった。 ただ、一緒にお湯につかってくだらない世間話をして 夜は同じ布団で眠った。 圭太は私の腕枕で子どもの寝顔で目を閉じていた。 私…

後悔

お酒に酔った私の頭の中に、 追い払って目を背けて自覚しないように 気をつけていた「後悔」という 二文字が襲ってきた。 姉と男は結婚して二人で頑張っていくと決めたのに、どうしてそれを私に 黙っていたのか。私が仕事をやめるといった時、何故そのことを…